月に一度 “謎の発作” に襲われていた私。AV女優引退後、症状は緩和されたのか?【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第11回
早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめる。「どうか私から目をそらさないでいてほしい・・・」連載第11回。
【泣きじゃくる子どものように】
ショッピングセンターで「あれが欲しい」と泣きながら地団駄を踏んで訴える子どもがいた。当然のごとく、保護者はどうにか我が子を宥(なだ)めようと、あの手この手で子供の意識を目の前にあるおもちゃから逸(そ)らそうと必死であった。それとは裏腹に子供の甲高い泣き声は増していくばかりで、人々はその様子を横目で見ながら通り過ぎて行った。母親もその人間たちと同様に、泣きわめく子どもをちらと見て、「あなたはあんな手のかかることしない子どもだったのよ」と言って微笑みかけた。
ほどなくして声は小さくなっていったが、あの子は望み通り欲しいものを手にすることができたのだろうか、それとも親が一から丁寧に話した説明に納得をして諦めたのだろうか。歩き進めるうちに遠く離れていたので結末は分からないが、その子供の様子はなぜか私の目の奥に焼き付いて離れようとはしなかった。
目の前にいる人間はこの光景を何回も目にしており、あまり動揺した様子を見せなかった。いつも通り「何か嫌なことがあった?」とだけ聞いて、それ以上の何かをするわけでもなく、ただただ “空気” として、泣きじゃくる私を見守っていた。
どうしようもなく嫌な何か、例えば私の中の閉じ込めた記憶を引き出すような言葉をくらった日だったり、何日間も限界まで働き詰めた後だったり、そんな状態に陥ったときは決まって「発作」のようなものを起こしていた。困ったことに「何が嫌か」と聞かれても「私も知りたい」という答えしか出てこなかった。
人から舐められた言葉や態度を向けられたのが嫌だったのか、それがきっかけでもっと前の嫌な出来事を思い出したのか、それとも一つの何かというよりも自分のとってきた様々な選択に対してなのか、考え得る答えは沢山あった。でもそこに行きつく前に理性よりも感情の濁流にのまれて、訳も分からず涙を溢れさせていた。わんわんと、小さな子供のように。ただそれも長くは続かず、大抵5分から10分くらいで収まることの方が多い。目の周りを真っ赤にさせた私に対して、きまってタオルに包んだ保冷剤を差し出して「後でコンビニにでも行こうか」とだけ声をかける、それが一連の流れであった。